挽物の達人 百瀬聡文さん【達人紹介#06】 | MANAVIVA!
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挽物の達人 百瀬聡文さん【達人紹介#06】
2021-11-14
挽物の達人 百瀬聡文さん【達人紹介#06】

MANAVIVA!で体験を提供する個性豊かな達人たちを紹介する「達人紹介」。第6回目の達人は、静岡市清水区の山の麓で“挽物所639”という工場を構え、挽物師として活躍している百瀬聡文(ももせとしふみ)さんをご紹介します。

❚ 挽物所639ってこんなところ

静岡市の清水インターから、車で約20分。山の麓まで進むと、挽物所639の工場があります。もともと茶工場だったこの場所ですが、2020年に改装し、現在の挽物所639の工場、そしてギャラリーが誕生しました。

工場内には、挽物で使う刃物などの道具や木工ろくろや旋盤などの機械が並びます。職人さんたちしか立ち入ることのできない、特別な領域です。日々、挽物所639の新しい作品たちが生み出されている息吹を感じます。

百瀬さんに、作品づくりの一部を見せていただきました。
慣れた様子でサッと木材を手に取ると、手際よく機械にセットし、木を削る刃物道具を手に持って、木材に添わせるように器用に丸く削っていきます。
このように木材を丸く加工していくのが、挽物の技術です。

全くブレのない手元、細かい部分も丁寧そして正確に削っていく百瀬さん。目の前で見るプロの技術に圧倒されて、じっと見入ってしまいました。

さて、そんな挽物の達人である百瀬さん。
挽物との出会い、そして挽物師として日本や世界で活躍するまでのお話を伺ってみました。

❚ 百瀬さんと挽物の出会い

ものづくりが好きで、学生時代は静岡市にあるデザイン専門学校に通い、 “ものから空間をデザインする” 勉強をしていた百瀬さん。卒業後の進路を考えるタイミングで、「小さい頃から好きだった木工の仕事がしたい」と先生に相談し、紹介されたのが挽物師という仕事でした。
実はそれまで、挽物という技術があることを知らなかった百瀬さん。しかし、挽物の世界に足を踏み入れてからは、その面白さにどんどん夢中になっていきました。

「挽物では、まず木を削るための刃物から、自分でつくるんです。鍛冶屋さんみたいに刃物を叩いて道具を作り、溶接もしたりします。他の工芸では道具からつくることはあまりないので、そういった “1からつくる” ところが面白くって、挽物に魅了されていきましたね。」

ーー挽物の魅力について、そう語る百瀬さん。
学校を卒業後、静岡市伝統技術秀士の親方のもとで約10年間修行をし、その後自身の屋号 “挽物所639” という名を掲げ、独立されました。

ところで、百瀬さんは学生時代からものづくりが好きだったとのことですが、どういったきっかけでものづくりに興味をもったのでしょうか?お話を伺ってみました。

❚ 自分で遊びを創った幼少期

百瀬さんがものづくりを好きになるまでのルーツをさかのぼると、きっかけは幼少期だと言います。その頃の子どもたちの遊びといえば、友達とゲームをしたりテレビを見たりすることが主流でした。しかし百瀬さんの場合は、ご両親の方針によりゲームは持たせてもらえず、テレビもあまり見させてもらえないような環境だったそうです。

それゆえに、ゲームを使わずともできる公園での遊びや、周囲の環境を使った外遊びを考案し、友達を遊びに誘い出していた百瀬さん。それが “モノをつくり表現する” ことへの興味関心につながっていたかもとしれない、と振り返ります。

すでにある環境の中から、新しいモノやコトを創造し、生み出していくこと。まさにものづくりにつながる思考だったのかもしれませんね。

❚ 発想は幸せなひとときに生まれる

いまは、挽物というものづくりを通して自分を表現できること、それがすごく幸せだと話す百瀬さん。
日々、挽物に向き合い、創造を続けている百瀬さんに、ものづくりの発想の原点について聞いてみました。

「 “挽物を通じて、この場所から幸せと感動を共に創り出す” これが挽物所639のコンセプトです。それを届けるためには、まず自分たちが幸せや感動を感じたりできることが大切だと思います。自分の幸せは挽物をやることですし、出来たものがすごくいいものだと、自分でも感動するんです。それを届けたい、共感したいっていう気持ちが強いですね。あと僕のもう一つの幸せは、家族。家族と夕方から食卓を囲んでご飯を食べる1時間、これが自分にとってはすごく幸せタイムなんですよ。そういう幸福な時間に、こういう器があったらいいなとか考えたり、家族でどこかに出かけた時に、こういうものがあったらもっと幸せな気分になれるじゃないかとか、自分の幸せを感じている時に、発想、アイディアが生まれている気がします。」

ーー幸せや感動を創り出すには、まず自分たちがそれを感じること。そのシンプルな気持ちは常に忘れないようにしたい、と話す百瀬さん。

挽物所639の作品が持つ “あたたかみや優しさ” は、百瀬さんたちの幸せから来るものなのだと感じました。

❚ ものづくりが持つ夢や希望を伝えたい

百瀬さん自身が感じる “ものづくりの楽しさや幸せ” を共有したり、ものを大切にするきっかけになればという想いで、子どもたちにも挽物を体験してもらう機会を設けている百瀬さん。

ものづくりを通して自分を表現し、それを発信していくことの面白さ。また同時に、モノがどうやって作られているか?を知ることで、それを大事にする気持ちを育んでほしいと話します。

「モノや情報が溢れ、簡単に手に入れられる時代ですが、そのひとつひとつには絶対に誰かが関わっていますよね。そういったことを真剣に見つめるのは大事なんじゃないかと思います。何かをつくって届けることの大変さや面白さって、やっぱやってみないとわからないですよね。ものづくりは自己表現ができるし、発信すれば誰かに見てもらえる夢と希望がある仕事です。それも伝えていければと思います。」

ーーたった数時間の体験でも、子どもたちにとって何かを感じとるきっかけになるかもしれない。そんな期待をもって、百瀬さんはものづくりに触れるワークショップを定期的に開催しています。

❚ 挽物で、幸せや感動をもっと届けたい

最後に、挽物所639のこれからについて聞くと、
「芯にあるコンセプトはそのままで、届ける幸せや感動が多ければ多いほどいいと思うので、日本全国そして世界にも、もっともっと広げていきたい。そして、従来の挽物の表現(家具の脚や雛具や仏具のパーツなど)から、全然違う分野、例えばファッションや建築などにも幅を広げていきたいです。いつもと全然違う分野と組むことで、新たな気づきとか可能性も秘められているかもしれないですし。自分も楽しみながら、そういうのにチャレンジすることを続けていきたいですね。」と話してくださいました。

ーー今後も挑戦を続ける百瀬さん、活躍の場をもっと広げていかれるだろうと思います。これからもずっと、応援しています!

(撮影・文/辻 芹華)