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とろろ作りの達人 丁子屋平吉さん【達人紹介#03】
2020-10-23
とろろ作りの達人 丁子屋平吉さん【達人紹介#03】

MANAVIVA!で体験を提供する個性豊かな達人たちを紹介する「達人紹介」。
第3回目の達人は、今年日本遺産にも認定されたばかりの”東海道”にお店を構え、歌川広重の浮世絵にも登場する老舗、名物とろろ汁”丁子屋”(ちょうじや)さんの14代目、丁子屋平吉(ちょうじやへいきち)さんをご紹介します。
※ちょうど取材をさせて頂いたタイミング(2020年10月12日)で、14代目として活動されていた柴山広行さんが、創業者”丁子屋平吉”さんの名を継承されたとのこと。以下、記事では平吉さんと記載させて頂きます。

❚丁子屋ってこんなところ

丁子屋は静岡駅から車で約20分ほど西の方へ進んだところにあります。古い町並みが少し残る、東海道沿いを進んでいくと…見えました!
この建物が、丁子屋さんです。

茅葺屋根が印象的で、時代劇から飛び出したような雰囲気の建物です。ちなみに、この建物は約300年前に建てられたものなんだそうです。すごい歴史ですね…!

早速、お店に入ろうとすると、今回ご紹介するとろろ作りの達人、平吉さんが入口で出迎えて下さいました。平吉さん、本日はよろしくお願い致します!

お店に入るとすぐ、囲炉裏や茅葺屋根の高い天井、長い年月を経たであろう立派な木の柱があり、「ここは本当に現代…?」とわからなくなる程、昔の趣がそのまま残っており、タイムスリップしたような感覚に!

お店の中には、江戸時代に実際に旅人が使用していた道具などを展示している、歴史資料館のようなスペースもあり、お食事の前後に楽しむことができるようになっています。
さらに驚いたのは、店内の一番大きな部屋”広重さんの部屋”に飾ってある、歌川広重の”東海道五十三次”の絵(復刻版)のコレクション。

お食事を待っている間も、浮世絵を見ながら旅人の雰囲気を楽しむことができます。ちなみに、丁子屋さんには丸子宿や静岡にちなんだ名前が付いた部屋が、ぜんぶで9つあり、それぞれの部屋に江戸当時を偲ばせる調度品や浮世絵などが飾られているそうです。お客さまを退屈させないように、様々な工夫をされているのですね!
ところで、丁子屋さんは毎日多くのお客様をお迎えしていると思いますが、一体どれくらいのとろろ汁を作っているのでしょうか?
平吉さんに尋ねたところ、なんと多い日で80~90kgの自然薯を使ってとろろ汁を作っているそうです。すごい数!

もちろん、すり鉢の大きさも、家庭用に比べて何倍もサイズが大きく、どっしりとした重みのあるものを使用しています。お店の厨房で使用しているすり鉢は、店内に展示用に置いてあるものがあるので、実際に触ったり、重さを確かめたりすることができます。

さて、ここまでお話を伺う中で、丁子屋さんは本当に長い長い歴史を積み重ねてきたんだなと、外観も店内からも至るところで感じるのですが、一体どんな歴史を過ごしてきたのでしょうか?平吉さんに伺ってみました。

❚"茶店"として、親しみやすくありたい

丁子屋が創業したのは慶長元年(1596年)、いまから200年以上の前のこと。いまでは「とろろ汁の丁子屋さん」として親しまれていますが、当時は茶店として開業されたそう。この時代の丁子屋さんの様子は、歌川広重の東海道五十三次の絵にも”名物茶店”として描かれています。
実際にその絵を見せて頂くと、立派な茅葺の建物、その中で休憩する旅人、赤子を抱えながらお料理を運ぶ女性の姿、が描かれています。
たしかに、当時から丁子屋さんは”名物茶店”として旅人の拠り所となり、親しまれていたのがわかります。

実は祖父の代に一度、建物を移築してるんです。その当時の日本は経済成長期で、”古いものを新しく便利なものに変えていく”といった時代でした。しかし祖父は、建物をあえて現代風に建て替えずに、そのまま移築することを選びました。そうすれば、浮世絵の風景を残すことができると確信していたんだと思います。いまは祖父が残してくれたこの浮世絵のような景色の中で、老舗だからと固く構えるのではなく、”茶店”らしく、地域やお客さんにとって親しみやすい存在でありたいと思っています。」と、平吉さんは言います。丁子屋さんはこうして代々、歴史を積み重ねてきたのですね…感慨深いです。

ところで、丁子屋さんではとろろ汁づくりの体験をされていますが、この体験も随分と前から実施されているのでしょうか?

❚農家さんの思いや、自然の大切さを伝えたい

体験は、とある学校からの相談がきっかけだそうで、6~7年前から始められたとのこと。意外にも最近のことでした。
子供達が体験している時の様子について、平吉さんに尋ねると、「体験の冒頭で、自然薯ってなんだろう?というお話をしたり、時には畑を見学したりするんですけど、子ども達はまず自然薯を見てびっくりしますね。あまり家庭で目にする野菜ではないからだと思います。”こんなに長いの?!”とか、すり鉢ですると、”ねばねばしてる!”とか”ちょっと手がかゆくなる!”などの反応を見せてくれます。そういったことって、やっぱり実際に触ったり、調理をしてみないとわからないと思うので、子ども達にとっては良い経験だと思います。」と、お話して下さいました。
いつも自分が食べているものが、畑でどのように育ち、収穫され、調理された後に、食卓に並ぶのか。これを知ることで、日々の食事がより美味しく、有難く思えてきますね。

“農家さんの苦労や思い、土や水などの自然の恵みがあってこそ、自分達の暮らしや歴史・文化が成り立っている。”
これが、平吉さんが、体験を通じて子供たちに伝えたいメッセージです。
平吉さん自身も、農家さんがどんな思いで、どんな環境で、自然薯を育てているのかを知るために、定期的に農家さんのところを訪問しているそうです。

最後に、平吉さんにこれからの展望について聞くと、「コロナをきっかけに、誰もが自分が住む地域に目を向け、その魅力を見直したりする時期だと思うんです。例えば、自分の地域の”何か”(場所とかモノとか)に対して、その成り立ちを知ったりすると、日々の暮らしが少し楽しくなりますよね。なので、もっと地域の魅力を色々知って欲しいと思います。知ってもらうためには魅力を発信しなくてはならないので、発信する活動を続けていきたいです。いまはまだ出来てないですが、ゆくゆくはこの地域が観光地として広く魅力を感じてもらえるような場所になったらいいなと思います!」とのこと。

平吉さんは、老舗の味を守るとろろ作りの達人に留まらず、丸子地域の魅力を掘り起こし発信する存在としても、精力的に活動されていました。
平吉さんの今後のご活躍にも注目です!

(撮影・文/辻 芹華)
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